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MY TIME〜私の時間術〜 Vol.13 あえて能と離れる時間を作り、気持ちをリセットしている――中村政裕(能楽師)

2017年7月31日

時間は誰にでも平等。だからこそ1日24時間、その限られた時間をどう使うかが「人生を楽しむ」ための鍵となります。様々な業界で活躍する人物から「時間術」を聞く本連載。第13回は能楽師の中村政裕さんにお話を聞きました。

撮影/高橋敬大 文/赤坂匡介

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父は能楽師であり、重要無形文化財 総合指定保持者の中村裕氏。能楽界でその名を知らぬ人はいない著名な父を持ち、自身も3歳で初舞台を踏みました。以来、中村さんは能楽師として今日まで歩み続けてきました。

中村さんが担う「観世流(かんぜりゅう)シテ方」とは、主役を演じる能役者であることを示しています。ある種の宿命を背負い、「物心ついたときには能楽師だった」という中村さんに、日々どんな時間の使い方をしているのか聞いてみると、そこには「毎朝、半身浴をして気持ちをリセットする」という中村流の時間術がありました。

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――3歳から能楽を始め、能楽師として生き続けてきました。現在、毎日している日課はありますか?

朝、半身浴をすることです。僕にとって父は、父親であり、師匠でもあります。プライベートでも仕事でも父とは一緒ですから、必然的に能のことを考えている時間が1日の大半を占めます。

とはいえ1日の内、少しでいいから「能から離れる時間」も作りたいと思うんです。そうなると、バスタイムだけが唯一、僕にとって能を忘れてリフレッシュできる時間なんです。

まずは朝起きたら、半身浴をして気持ちをリセットする。それが僕の日課であり、1日のスタートですね。

――気が付けば能楽師として歩んでいた中村さんにとって、能とは?

自分を作っている大きな要素だと思っています。また同時に、仕事という感覚もあります。舞台に立つのも仕事ですし、弟子に稽古を付けるのも仕事です。ただ、子どもたちに能を教えているときだけは、仕事だと思わないようにしています。

文化庁の仕事で、学校で能のレクチャーをしているのですが、子どもたちは敏感ですから、「仕事だと思って来ている大人」のことはわかるじゃないですか。それでは子どもは喜んでくれないと思うんです。

僕には、すごく記憶に残っている出来事があります。一昨年のことなんですが、新潟の小学校で最後に舞を披露したあと、そのまま脱水症状で倒れてしまったんです。気が付いたときには、校長先生にうちわで仰がれていました(苦笑)。その後、子どもたちの前に行ったら、「感動しました!」と言ってくれたんです。

そのときに、僕が一生懸命にやった気持ちが届いたんだと感じました。それが本当にうれしかったんです。レクチャーした内容はいつか忘れてしまうかもしれないですけど、自分たちのために、必死にがんばってくれた大人がいたことは、もしかしたら覚えていてくれるかもしれない。それで充分だと思えました。

能は非常に難解ですから、すべてを理解するのは大変です。上手いか下手かすら、たぶん多くの人にはわかりづらいと思います。ならば、見た人に「魂だけでも届けたい」と思うんです。実際、「わからない部分もあったけど、魂を感じた」と言ってもらえることもあり、そのときはすごくうれしいですね。

NIXONの腕時計を買ったのは、悪に憧れていたから

――今日はNIXONの腕時計をお持ちいただきました。金色を選んだのは、なぜですか?

能楽師っぽくないですよね(苦笑)。当時は、まさに「能楽師っぽくないもの」を選びたいなと思い、金色にしたんです。

20代の頃、まとまったお金が入ってきたことがあり、腕時計を買いたいと考えました。当時は、「人にどう見られるなんて関係ない」と思っていましたし、他人とは違うものを着けたいという意識が強くありました。

僕は学校も学習院でしたし、自分で言うのもなんですが、育ちがいいんです。真面目に生きてきましたし、悪さなんてしたこともありません。だからこそ、悪に憧れた時代がありました。その頃は、洋服も的屋の兄ちゃんみたいでした……(苦笑)。だから時計も、ちょっと悪そうな金色にしたわけです(苦笑)。

ただ、個人的には「人と違うことをしたい」と思っていただけだったのに、会う人から「怖い」と言われることが多くありました。でも、本当の僕はそこにはいません。実際は怖い人間でも、悪い人間でもないわけですから。そこに違和感を感じ、この時計を着ける機会も少なくなりました。ですが、当時の思い出が詰まっているのと、自分への戒めも込めて、いまでも大切にしています。

いつか“能楽師らしい”、シンプルで大人の男を感じさせる腕時計を買い直したいですね。

↑悪に憧れた時代に購入した、NIXONの腕時計

――当時、「本当の悪人になってしまおう」とは思わなかったですか?

思いませんでした。やはり演じる役者の人間性が、舞台の上には現れますから。だからこそ、良き人間でありたいと思います。能は面(おもて)を着けるため、顔も表情も見えません。それでも滲み出るものがあるんです。それが演じる人間の“人間性”だと僕は思っています。

――今後の目標は何ですか?

ありきたりですが、多くの人に笑顔を届けられる人間になりたいです。僕はこれからも一生、能に携わっていきます。その中で、能を通して誰かの役に立ちたいと思っています。だからもし、今回の記事を読んで、ひとりでも「能を見てみよう」と思ってくれる方がいたら、とてもうれしいです。

そして見に来てくれた方にしっかりと魂を届けられるよう、今後もまっすぐに日々を歩んでいきたいです。

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中村政裕(なかむら・まさひろ)

能楽師

1984年東京都生まれ。3歳から能楽をスタートし、3歳で初舞台を経験。以来、舞台に立ち続け、2011年『吉野天人』にて初シテ(主役)を演じる。現在は3世梅若万三郎および、父である重要無形文化財 総合指定保持者の中村裕に師事し、「観世流シテ方能楽師」として東京を拠点に活動中。

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